旋律的 林巧公式ブログ

旅とおばけと音楽と、小説とごちそうと物語について。

ようこそ

オランダの道端に停まっている荷台に積まれた自動演奏楽器。夕暮れどきの広場にオルガンと鐘と太鼓の音色を響かせます。ここが街のみんなが集う“黄昏広場”です。 「旋律的(はてなダイアリー)」が、こちらに引っ越しました。“カテゴリー”のリストは、スタイ…

続“おばけのいない人生”

世界と人生をあれこれ考える時に“〜である(のある)人生”と“〜でない(のない)人生”という対義的二分法で考えてみる。たとえば“おばけのいる人生”と“おばけのいない人生”。ほんとうに恐ろしいのは“おばけのいない人生”だ。おばけのいない人生(世界)が恐…

川越のピアノ演奏会

川越に出かけて、尚美学園大学の教員によるピアノの教育研究発表会(2014/10/21)を聴いた。8人の演奏家による、4人の作曲家のピアノ作品の演奏会。ドメニコ・スカルラッティのソナタから5曲(演奏、青木いづみ)、ショパンの練習曲集 Op.10より、第1、2、4…

panino的

「panino的」始めました。

丘の聖母教会

丘をゆっくり登ってゆくと、巨大な葉を美しく開いた、“扇芭蕉(おうぎばしょう)”の木がみえた。英語名では“旅人の木”(traveller's tree)、または“旅人椰子”(traveller's palm)と呼ばれる。ぼくがマレーシアで大好きな椰子の木のひとつだ。“旅人”という…

クライスト・チャーチ、マラッカ

マラッカには、歩いてわずか数分のところに、歴史的な教会が、壁だけが残された廃墟を含めて、三つある。ポルトガル人、そしてフランス人がかかわったカトリックの教会と、もうひとつは新教徒のオランダ人が建てた教会である。 この新教徒のクライスト・チャ…

絶望に効く薬

もう随分前のこと、山田玲司という漫画家がやって来た。そして、彼と対談をした。魅力あるキャラクターを描き、物語を紡ぎだすことが、いうまでもなく漫画家の本来の仕事だ。だが、彼はどうしたわけか、そのころ自分が会いたい人に会い、話を交わして、その…

ハリ・ラヤ

家族連れが和気藹々と乗ったプロトン・サガを横目にみながら、空港ハイヤーのメルセデスのマレー人運転手は、みずからも幸せそうにハンドルを握って喋る。 「明日(8/8/2013)はハリ・ラヤ。みんな家族揃って、それぞれの田舎へ帰る。だから、今日は一年で一…

マレー半島のハイウェイで

クアラルンプール国際空港からマラッカへと向かうハイウェイをメルセデスで飛ばしながら、ミニバスであくせくと移動していた、90年代のクアラルンプールをふと憶いかえす。このメルセデスは申し分なく快適で、それに比べて、あのころのミニバスは暑苦しく、…

クアラルンプール国際空港

マラッカを初めて旅したのは、1992年のことだ。だから、22年前のことになる。マラッカだけでなく、クアラルンプールも、ジョホールバルも、ペナンも、シンガポールも、マレー半島には、90年代初めから、繰り返し好んで出かけた。ぼくにとっては、世界のなか…

立体交差 フィレンツェ―マラッカ

さて、フィレンツェの旅は、“パニーノの幸せ”で終りを告げたわけではなく、この後もつづく。だが、ここで現実の時間として、8か月ものインターバルが入っているのは、旅のつづきを忘れたからではない。旅ではない側の、慌ただしさが増したからでもない。 187…

パニーノの幸せ

アパートすぐ近くの、I Fratellini (イ・フラテッリーニ / 兄弟)で、パニーノ ( panino / 丸形のちいさなパンでつくる、イタリアのサンドイッチ)を買う。男ふたりがやっていて(彼らが兄弟!?)、店のなかは身動きする二人でほぼ一杯という、とてもちいさ…

アルノ川と恋人たち

ポンテ・ヴェッキオ(Ponte Vecchio / 古い橋 ) は、いろいろな意味で、フィレンツェを象徴する橋だ。ジォットの一派によって設計されて、アルノ川に架けられたのは、1345年のこと。その名のとおり、とても古い。 橋のうえでは、もとは肉屋や鍛冶屋がちいさ…

ベアト・アンジェリコ

朝食は、焼きたてのサウシッチャに、ブレザーオラ、サラミ・ミラノ(Salame Milano / ミラノ風サラミ。最も一般的で、イタリアのみならず、世界各地に普及している)、イタリア野菜とトスカーナ風ペコリーノ・チーズのサラダに、パーネ・トスカーノ(pane to…

アマトリチャーナ

パスクアで多くのレストランが休みなので、思いついて、アパートのキッチンでパスタを料理してみる。アマトリチャーナ(amatriciana)をつくってみよう。材料は、瓶詰めのトマト・ソース、にんにく、パンチェッタ(pancetta / 豚ばら肉の塩づけ)、オリーブ油…

パスクア

朝、聞き覚えのある太鼓のロールが遠くから聞こえてくる。アパートの窓をがちゃりと開けると、待ちに待ったこの日を祝うように、昨夜のパレードから勢いも陣容も増して、メディチ家の紋章旗を振り、太鼓を叩き、大勢のひとたちがパレードしている。パスクア…

復活祭前夜

フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅からほど近いトラットリア(trattria / 食堂。より格が高い店がristorante、居酒屋を兼ねる食堂はosteria) “I due G” で、ディナー。この旅で二度めの、ビステッカ・アラ・フィオレンティーナ(Bistecca alla Fio…

ピサ

朝起きて、窓を開ける。このアパートの窓は、一番外側に日避け扉、真ん中に分厚い木枠に支えられたガラス扉、そのガラス扉の内側にガラスを覆う板扉、と三重の扉の構造になっている。日避け扉だけが建物の外側に向けて開き、ガラス扉は、板扉を抱えながら、…

ドルチェとピッカンテ

教会の鐘が毎朝六時に、六つ、鳴リ響く。それが夜明けの最初の鐘の音だ。その深い響きわたる音で、心地よく目覚める。夜のうちに雨が降ったようで、窓を開けると石畳が、しっとりと濡れている。石畳の道には、実にさまざまな表情がある。雨に濡れた石畳は、…

サンタ・マリア・デル・フィオーレ

朝はイタリアの腸詰め、salsiccia(サルシッチャ)を焼く。ソーセージの仲間だが、加熱処理をせず、豚肉の粗ばら切りを生のままで香辛料とともに腸詰めにしたもので、スーパーなら必ず手に入る。しかも、安い。METAで買ったものは、1パック1.32€(158円)。朝…

カンパニーレ・ディ・ジョット

メルカート・チェントラーレとアパート近くのスーパーMETAで買った食材で朝ご飯。トスカーナの塩なしパンに、プロシュート、トスカーナ風サラミ、スモーク・チーズに、トマト、イタリア野菜とツナとすりおろしたトスカーナ風ペコリーノ・チーズのサラダ、シ…

メルカート・チェントラーレ

早速、ドゥオーモとFirenze S.M.N.駅(フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅)との真ん中あたりにある、Mercato Centrale(メルカート・チェントラーレ / mercatoは「市場」、centraleが「中心の」で、「フィレンツェ中央市場」)へと繰り出す。 イタリ…

フィレンツェ

懐かしいフィレンツェに着く。アメリゴ・ヴェスプッチ空港を出たタクシーが十数分ほどで旧市街地に入ってゆくと、当然のことだが、15年前と何も変わらぬ、街の景観が目に入り、心からほっとする。チャイコフスキーは、ひとときフィレンツェに暮らし、「フィ…

アメリゴ・ヴェスプッチ空港

ルフトハンザのシティライナーはアルプスを越え、イタリアのアメリゴ・ヴェスプッチ空港に着陸。アメリカの名の起源となった、ヴェスプッチは、フィレンツェ共和国時代の、15世紀から16世紀にかけてのフィレンツェ人で、メディチ家に仕えたことから、ポルト…

フランクフルト

2013年の旅はフランクフルトから。ルフトハンザの巨きな飛行機から、ちいさなシティライナーに乗り継いで、南の欧州小都市へ。雲海から頂をみせるアルプスと、地球が球であることを示す地平線、宇宙へとつながる空の濃紺が美しい。

三字熟語の三拍子

朝飯前の煙草屋で交響詩 レコードは33と散文の1回転 ピチ、パチ、プチ 有頂天の一本足が一目散 豹よりも速く、雹(ひょう)よりも冷たい 三拍子の白拍子 兎小屋の居心地は桃花水 赤い目でどんぶりこ、アウフタクトは白い耳 いち、に、さん 生意気な野次馬は…

作家の“かもめーる”

筒井康隆氏より、朝日新聞朝刊で7月13日に連載がスタートする小説「聖痕」についての文章が、スイカの切手の日本郵便“かもめーる”で届いた。題字と絵は、ご子息の画家、筒井伸輔氏が担当するとのことで、今日、朝日新聞に予告記事が出ている。 かつては、そ…

252階のチャンドラと173階のミミ

煩く電話が鳴っている。 チャンドラはベッドサイドの起床スイッチを押した。部屋のなかに薄ぼんやりと明かりが点り、壁のスクリーンが開いて、ちいさな手鏡ほどの大きさの丸い窓があらわれた。チャンドラは寝ぼけ眼を擦りながら、二百五十二階の窓の外の光景…

小松左京が鳴らす“鐘”の響き

この夏、発刊したばかりの「アレ!( allez ! )」というデジタル文芸誌が、七月二十六日に逝去した小松左京の追悼特集を組み、短編小説「熱帯雨林が熟すとき」を寄稿した。この数百年もの間、紙を糸で綴じた頁を、ただひとつの住処としてきた文芸作品と、デ…

ろうそくの炎がささやく言葉

大地震が起きる十八日前の夜――パラダイムが転換してしまい、もう何年も前のことのように感じられるが――二月二十一日のこと、読売文学賞の贈賞式と祝賀パーティが帝国ホテルであった。そのさらに一年前(二〇一〇年)の、小雪が舞う春の夕べ、トークイベント…

3月11日

衝撃は時間の手触りをかえてしまう。二〇一一年の三月十一日、午後二時四十六分が、半年も、一年も、もっとずっと前の、あるいは先の、次元を異にする遠いところであるかのように、今となっては感じられる。 胸のなかに、手がかりとしてあるのは、もう十六年…

上海を想うチャイナタウン

上海にいたわけではない。ほとんど赤道に近い、蒸し暑く、ちいさな街で、ぼくは一か月ほどを過ごしていた。そこは中国大陸から、もう忘れられたような、旧いチャイナタウンだった。その街の知り合いから、三日後に雅集(ヤーチー)があるから来ないか、とい…

乃木坂にやってきたリチャード・ワイルド

乃木坂の地下に、蝙蝠(こうもり)がこもる洞窟のようにしてつくられた、あまりひとけのないバーの片隅で、私はひとり酒を飲んでいた。 木目が飴色になった八人がけアンティーク・テーブルに、私は座っていた。カウンターには二、三人の客がいたが、私の他に…

“旅を書くこと”を語る

旅を書くことについて、管啓次郎氏と対談します。三月九日午後七時から、表参道の青山ブックセンター本店にて。 管さんとはじめて会ったのは、二〇〇〇年の、確か、何かが道をやってくる(レイ・ブラッドベリ)……いや、誰かさんがみつけた(サトウ・ハチロー…

囃子の響きとともに

囃子を府中、中河原に習いに行きはじめて、もう三年が過ぎた。お祭りのとき、山車のうえから囃したてる、あの祭り囃子だ。その囃子連の忘年会があり、高橋忠行氏の話になった。中河原の囃子連のみんなは、今年はタダユキが……と声を落とした。 彼は、ぼくにと…

超弦領域 年刊日本SF傑作選

文芸批評としてのアンソロジー超弦領域 年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)作者: 日下三蔵,大森望出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2009/06/25メディア: 文庫購入: 18人 クリック: 178回この商品を含むブログ (67件) を見る 大森望、日下三蔵のふたりが腕利き…

妖怪とSFと小説と

この土曜日(明後日)、「妖怪とSFと小説と」というタイトルで、ぼくの母校である大阪府立北野高校にて、およそ二時間、話をします。それぞれ脈絡がありそうで、なさそうでもある、三つの言葉ですが、ぼくにとっては、どれも親しいもので、人生のなかで大切…

キナバタンガン川、ボルネオ・サバ州

ボルネオのキナバタンガン川流域を旅してきた。息子とともに、川沿いのジャングルで、ハンモックを吊っての野営。この春のことで、帰って来てから、アルフレッド・ラッセル・ウォーレスの「マレー諸島」を読み返していて、いろいろな発見がある。ウォーレス…

ラスト・ブラッド

選ばれし者の恍惚と不安ラスト・ブラッド (角川ホラー文庫)作者: 林巧出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング発売日: 2009/05/23メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 6回この商品を含むブログ (4件) を見る 新たなプロレス団体の旗揚げに際して、リング…

トゥルニャン、バリ島

石をみかけることが、めっきり少なくなった。もちろん、山のなかや、河原にでかけてゆけば石はいくらでもあるだろう。だが、ほんの少し前までは、そんなところまで出向いてゆかなくとも、道端にごろごろと石は転がっていた。 今の日本の町中には石はない。石…

アジアシリーズと西宮球場

ふと思い立って、東京ドームへ出かけた。 この時期(11月中旬)、プロ野球のアジアチャンピオンを決めるアジアシリーズが、二〇〇五年から毎年、行われていて、一昨年あたりから気になっていたのだ。日本代表の西武ライオンズと、台湾代表の統一ライオンズが…

竹湾酒店(ポウサダ・デ・コロアネ)で薔薇色のワインを撒く毬奈

竹湾に打ち寄せてくる波の音を聞きながら、毬奈はほんのりと顔を赤らめて、ひとりぼんやりと海を眺めていた。ようやくひと心地ついたという感じだ。こんな地の涯てのホテルにしては、たっぷりとひろいバルコニーに、エクステリアの真っ白なテーブル、そして…

ライデン、オランダ

誰だって、はじめてでかけた外国の風景、そこで起こった出来事は忘れない。ぼくの場合、それはオランダだった。 ぼくはまだ二十代のはじめで、ある月刊誌の新米編集者として働いていた。その雑誌の仕事での、突然の海外出張だった。当然ながら、オランダにつ…

ロシア語の巧くん

「ピアノ・レッスン」という小説のなかに、アンドレイ・レヴィツキーというウクライナ人のピアニストが出てきて、彼がピアニストとして楽譜にサインをする、物語上、重要なシーンがある(サインは筆記体で、小説のページに、そのままあらわれる)。そのアン…

庭のブランコに揺られるマリ

マリという名は母がつけたものだ。そう聞かされて、幼いマリは育った。父はフランス人のようだといって、最後まで抵抗したらしい。けれども、母が押し通してしまった。生まれてくる赤ちゃんが男の子だったら、父が名前をつけ、もし女の子だったら母がつける…

さくらのはなのちりぬるを

さくらのはなのちりぬるを にほへるしたのあはれなる わがよたれぞつねならむ いろはにほへとちりぬるを ころもかたしきをわかよをわかよ をわかよをわかよひとりかもねむ さくらのはなのちりぬるを うつろふしたのあはれなる うゐのおくやまけふこえて いろ…

香港の鳥女

鳥女をヴィクトリア・パークのテントのなかでみてから数日がたった。そして一九九六年の大晦日がやってきた。 ぼくは尖沙咀(チムサーチョイ)の香港文化センターで催された、香港フィルハーモニー・オーケストラのウィンナ・ワルツの演奏会にでかけた。香港…

キッチンからはじまる旅

毎朝、ぼくは目覚めると、まずコーヒーをポット一杯分、淹れて、それから家族全員の朝ごはんをつくる。メニューは日によって違う。イギリス・パンと野菜スープであったり、スパゲティ・カルボナーラであったり、ホウレン草を使った翡翠炒飯であったり、カル…

ひとりの編集者の死

年が明け、仕事がはじまって間もない九日、新潮社の青木大輔氏からメールが入った。新年の挨拶の後につづけられた、短い文章に、ぼくはあっと驚いた。 “……私の同期であり、友人だった、鳥飼拓志君が、五日に亡くなりました。私は仕事初めの七日に聞きました…

雑誌の配達、そして“神田村”へ……青山ツインタワービル、流水書房青山店(2)

昼下がりの配達 さて、遅めのランチが終わると、ぼくは配達にでかけることが多かった。 流水書房が入っている青山ツインタワービルは、地上二十三階の高層ビルが東西に二棟ある巨大オフィスビルで、上層階にはたくさんの会社が入っている。そうしたオフィス…