旋律的 林巧公式ブログ

旅とおばけと音楽と、小説とごちそうと物語について。

B級グルメ伝説

h_major2007-06-05

 コーヒーのうまいまずいは馬でもわかる、と別役実がいっていたが、そのとおりだと思う。たとえをかえれば、粘膜への刺激なら猫でも感じる。生理的な粘膜でもない、味蕾でもないところで、おいしい快楽を味わうのが、人間らしい態度であろう。
 そんなごちそうのたしになればという伝説ばかりを集めて、一冊の本にしました。タイトルは出版社の意向と、こうした食べものに当てはめられる言葉がやはりどこをどう探しても出てこないため、敢えて“B級グルメ”という言葉を使いました。
 この偉大な名文句の生みの親である、文藝春秋社の内藤厚(筆名、里見真三)氏とは、たった一度の面識しかありませんが、伝説的な雑誌『くりま』より食べものへの偏愛の旅をつづけ、また毅然として“粘膜に頼らない快楽”への傾倒を深めた氏の仕事に敬意を表しつつ、おなじ精神で書かれたものとして、仲間の片隅に入れていただけば幸いです。
 “もつ鍋”は『文藝春秋』誌(九三年一〇月号)、“大阪新世界”は『日経エクゼクティブライフ』誌(九一年冬号)、残りすべての原稿は九一年から九六年にわたって『dancyu』誌に掲載されました。
 取材でお世話になった料理人の方々に、心よりお礼をもうしあげます。ありがとうございました。いずれも大幅に書きかえていますが、仕事をともにした編集者、ことに『dancyu』誌の前副編集長の中田雅久氏、現編集長の多和田明氏に深く感謝しています。両氏がいなければ、ぼくはこうした謎解きの旅をつづけられなかったでしょう。
 また『アジアおばけ街道』にひきつづき、単行本化でお世話になった扶桑社の村上圭一氏にも感謝します。おばけも食べものも、それがもたらす重大なものは目にみえないという点ではかわらず、しかも、この世のしあわせと密接に結びついているということでは、まったくおなじだと感じられました。
 世界はひらけているようでいて、まだまだ隠された秘密がいっぱいあるようです。そうした秘密をひとつずつ訪ねる旅をつづけようと思います。それでは、また。どこかで。
(扶桑社/1996年)