旋律的 林巧公式ブログ

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アジアもののけ島めぐり/文庫版

h_major2007-06-09

 すべてもののけの仕業である。
 この本は、『アジアおばけ諸島』というタイトルで、同文書院より一九九五年に刊行された。原版のエピローグにあるように、このとき、水木しげる氏に解説として文章を寄せていただいた。
 さして売れたわけではない。にもかかわらず、おなじ出版社から『アジアもののけ島めぐり〜妖怪と暮らす人々を訪ねて』と改題し、判型も新たにして、一九九七年に再び刊行された。これもまたさして売れたわけではない。
 にもかかわらず、こうして文庫化される運びとなった。
 これはもう、この本のなかに登場するもののけたちが、彼ら自身の力で、この本に命を与えつづけているとしか、考えられない。この本はすでに作者の手から遠く離れている。もういまとなっては、もののけたちの手の内にある、文字どおり、もののけたち自身の本である。
 だから、この本を読んで、なんらかの感触や、インスピレーションを得たとすれば、それは作者の力ではなく、もののけ自身の力によるものである。そう考えていただきたい。そのとき、心に抱かれた想いは、他のなにものでもなく、アジアの“おばけ諸島”に今も棲みつづけるもののけたちと、ダイレクトにつながっている。

 文庫化にあたって、オリジナルの素晴らしいカバーデザインを製作していただいた横尾忠則氏、超人的な忙しさのなかで素敵な文章を寄せていただいた京極夏彦氏に、心より謝意を表します。原版で文章をいただき、快く再録を許諾してくださった水木しげる氏にも、心よりの謝意を表します。
 アジアのもののけを語る一冊の本のなかで、水木しげる氏、横尾忠則氏、京極夏彦氏という三人の名が揃うということは、作者にとって、まるで信じがたい喜びです。もののけ、妖怪、精霊に通じているという点で、現在の日本で最強のラインナップであるということに異論を唱える人はいないでしょう。これもまたもののけ自身の仕業なのです。
光文社文庫/1997年/ カバーデザイン 横尾忠則 /巻末エッセイ 水木しげる「おばけは“霊”である」/ 解説 京極夏彦「その新しい地図に日本はあるか?」)