旋律的 林巧公式ブログ

旅とおばけと音楽と、小説とごちそうと物語について。

チャイナタウン発楽園行き/イースト・ミーツ・ウエスト物語

 三十センチ先もみえない恐ろしい真っ暗闇と、真夜中でもまるで真昼のようなネオンの輝き。ぼくにとっては、そのどちらもが魅惑的だった。チャイナタウンには、その両方があった。
 夢をみるためには、そのふたつがどうしても要(い)る気がする。どこまでもつづく、ほんとうの真っ暗闇では、ひとは夢をみる余裕などもてず、ネオンの輝きしかない場所では、そこにあるものしかみえない。暗闇のなかで何もみえないということも、電球が照らしだす目の前しかみえないということも、とても不幸なことだ。
 ストリートということで眺めてみても、チャイナタウンほど、ひとを目的もなく、ただ歩くことに誘い込む場所はない。チャイナタウンほど、歩いていて愉しく、恐ろしい通りもない。
 かつて日本の町(まち)が、日本列島の外側に築かれた時代もあった。今はもうない。本文中でもふれたが、街(ジエ)とは元来、中国式の呼称であった。街は中国大陸の外側に築かれて、今もある。
 これからもきっと闇の深さの恐ろしさに背筋をぞっとさせながら、通りを彩るネオンの輝きにくらくらと目眩を起こしながら、ぼくは街のなかを歩きつづけることになるのだろう。

 厳しい執筆スケジュールのなかで解説の文章を寄せてくださった管啓次郎氏に心より感謝します。『マカオ発楽園行き』に引きつづいて、講談社の谷章氏には、お世話になりました。
 街のなかで、街のそとで出会ったひとたちありがとう。
(解説 管啓次郎「弓使い、息遣い……あるいは振動と旅について」)