旋律的 林巧公式ブログ

旅とおばけと音楽と、小説とごちそうと物語について。

香港での老林(ラオリン)との別れ

「あんたはわしの話を聞き過ぎたのかもしれん」
 老林は思案深げに、そして慈愛をこめたまなざしで、私の顔をみつめてから、ゆっくりと口を開いた。
「どうする?」
 老林は私をじっとみつめながら訊いた。
「この街に残るなら、残ってもいいぞ」
「いえ」
 私は老林の皺だらけの顔をみた。
「いろいろなお話を聞かせていただいたことに、お礼をいいます。……あなたのことは忘れません。どうかいつまでもお元気で」
 老林は微かに笑った。
「ああ。あんたもな」
 ゆっくりとドアは閉められた。私の目の前で「琴楽」という看板が微かに揺れ、私はドアの外にひとり取り残された。


……「香港の棺桶屋」より