旋律的 林巧公式ブログ

旅とおばけと音楽と、小説とごちそうと物語について。

アマンがドアをノックする

 
 ホテルのドアがノックされ、私が開けると、アマンが立っていた。彼は不思議な顔をして、じっと私をみつめた。私が妹と似ているから、驚いているのだろう。ここで疑われてはどうにもならないから、私はわざと妹とそっくりの髪形にして、はるばるクアンタンまでやってきたのだった。
「妹がお世話になってありがとう」
 私が英語で礼をいうと、アマンは端正な発音のイギリス英語でいった。
「とんでもない。……村中、みんなが驚いた」
 アマンは声を潜めて訊いてきた。
「妹さんがいったことはほんとうか? あなたも我々が守っている、神のココヤシをみたのか?」
「ええ」
 私はゆっくりといった。
「だから、私にもみせてもらえるかしら」
 私は妹の興奮した声を憶いだしていた。マレーシアの長いひとり旅から日本に帰ってきた妹の電話を聞いて、私は自分の耳を疑った。
「あのココヤシの木があったの! ほんとうよ! パハン州トレンガヌ州の州境のジャングルのなかのね、クラパ・アンガンって、ちいさな村に!」


……「ココヤシ」より